あの日、勉強部屋でコーヒーの香りに救われてから。 私はその魔法をもっと知りたくて、意気揚々と「コーヒーの世界」の扉を叩きました。
そこで私を待っていたのは、底知れないほど深くて魅力的な「沼」と、それと同じくらい高くそびえ立つ「壁」でした。
道具が放つ、抗えない魅力
まず私を惑わせたのは、美しく、それでいて機能的な道具たちです。
「均一に豆を挽くために設計された、数万円の高性能ミル」 「1度単位で温度を操れる、美しい曲線を描くケトル」
正直に言えば、一眼レフカメラという精密機械を愛する私にとって、こうした「かっこいい道具たち」には、たまらなくワクワクしました。「これを使えば、もっと美味しいコーヒーを淹れられるんじゃないか」という高揚感があったのは事実です。
でも、同時にこうも思いました。 「この道具を揃えないと、仲間に入れてもらえないんだろうか?」
ワクワクする一方で、初心者が一歩踏み出すには、あまりに高価で専門的すぎるハードルのようにも見えたのです。
メニュー表に並ぶ「呪文」を読み解きたい
言葉の壁も同じでした。 「エチオピア・イルガチェフェ・ウォッシュド」 「アナエロビック・ファーメンテーション」
専門店やネットに並ぶこれらの言葉は、初心者の私にはまるで「呪文」のよう。 もちろん、その一つ一つに美味しい理由があり、作り手の情熱が詰まっていることは、今ならわかります。でも、当時はその「正解」を知らないと、コーヒーを選んではいけないような疎外感を感じていました。
私が知りたかったのは、もっと身近なこと。 「苦くないのはどれ?」 「夜、少し落ち着きたい時に合うのは?」
ただそれだけなのに、言葉の難しさがその「安心感」を遠ざけてしまっている気がしたのです。
専門用語を「翻訳」して、ワクワクを共有する
私は、こうした専門用語や高性能な道具を否定したいわけではありません。むしろ、その奥にある深い楽しみを、もっと多くの人と共有したいと思っています。
だからこそ、私はこの活動を通して「翻訳者」になりたいと考えました。
難しい専門用語をただ使うのではなく、誰もが直感的に「美味しそう」と思える言葉に置き換えて伝える。 「アナエロビック」という製法の凄さを、「完熟したベリーのような贅沢な甘み」と訳してみる。 「数万円のミル」がなくても、まずは今あるマグカップで最高の一杯を楽しむ方法を提案する。
「難しいことを、難しくないように伝える。でも、その奥にある面白さは削らない」
それが、私が目指したいコーヒーとの向き合い方です。 道具へのワクワクも、深い知識も、全部ひっくるめて「楽しい!」と思える入り口を、少しずつ整えていきたい。
次回は、そんな私が考え抜いて決めた、屋号「Your First COFFEE」に込めた願いについてお話しします。



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